「今日は楽しかった」と帰られるお客様を見送りながら、いつも心の奥で感じていた不安。それは「次回も来ていただけるだろうか?」という想いでした。
LINE公式アカウントを導入したのは3年前のこと。「これで既存のお客様との関係がもっと深まる」という期待を胸に、月に2〜3回の配信を開始しました。
しかし現実は厳しいものでした。
「○○日は○○イベント開催!」 「新メニューが登場しました」 「雨の日割引実施中です」
こんな内容ばかり送っていても、返信はほとんどゼロ。開封率も徐々に下がっていく数字を見ながら、「やっぱり自分には文章なんて書けない…」そう諦めかけていました。
もしかすると、あなたも同じような経験をされているのではないでしょうか?
真剣に店舗経営に取り組み、お客様のことを心から大切に思っているからこそ、LINE配信の効果に期待を寄せた。でも思うような反応が得られず、「文章が苦手だから仕方ない」と諦めの気持ちが生まれてしまう。
そんなもどかしさ、私には痛いほどよく分かります。
転機が訪れたのは、思いもよらない場面でした。
常連のお客様の一人、80歳になる田中さん(仮名)が、いつものように麻雀を楽しんだ後、こんなことを言ってくださったんです。
「河原さん、最近のLINE、なんだか他人行儀な感じがするね。前はもっと、河原さんらしい温かさがあったような気がするんだけど…」
正直、ドキッとしました。
田中さんは、私が麻雀店を始めた頃からのお客様で、いつも率直な意見をくださる方です。その田中さんからの、この一言。
「確かに…最近の配信、『お知らせ』ばかりになってるな」
その夜、過去の配信を見返してみると、田中さんの言葉の意味がよく分かりました。確かに、事務的な情報ばかりで、私自身の想いや、お客様への感謝の気持ちが全く込められていませんでした。
「どうすれば、田中さんが言うような『温かさ』を文章で伝えられるんだろう?」
そんな疑問を抱えながら、翌日、何気なく手に取った経営関連の雑誌に、運命的な記事が載っていました。アメリカのコンテンツマーケティング専門家、アン・ハンドリーの「優れた文章に必要な3つの要素」についての記事でした。
なぜ店舗のLINE配信は「読まれない」「反応がない」のか?
「毎月きちんと配信しているのに、なぜ反応がないんだろう?」
そんな疑問を抱えているあなたに、まずお伝えしたいことがあります。それは、反応がないのは決してあなたの努力が足りないからではない、ということです。
実は、多くの店舗経営者が無意識のうちに陥ってしまう「配信の罠」があるのです。
多くの店舗が陥る「お知らせ配信」の罠
私自身もそうでしたが、LINE配信を始めた当初は「お客様に情報をお伝えする」ことが目的になっていました。
「新商品が入りました」
「来週はお休みです」
「○○セール開催中」
これらの内容は確かに必要な情報です。でも冷静に考えてみてください。お客様の立場になって、この配信を受け取ったとき、どんな気持ちになるでしょうか?
「ああ、またお店からのお知らせか」
「特に興味ないな」
「とりあえず既読にしておこう」
このような反応になってしまうのは、実は自然なことなのです。なぜなら、これらの配信には「お客様の感情」が含まれていないからです。
お客様がLINEを開くとき、友人や家族からのメッセージを期待しています。そこに届くのが「事務的なお知らせ」だったら、心が動かないのは当然のことです。
私が気づいたのは、「情報を伝える」ことと「想いを伝える」ことは、全く違うということでした。
お客様が本当に求めているのは「情報」ではなく「共感」
ある日、常連のお客様がこんなことを言ってくださいました。
「河原さん、このお店に来ると、なんだかホッとするんです。家にいるような安心感があるというか…」
この言葉を聞いたとき、ハッと気づいたのです。お客様が求めているのは、麻雀をすることだけではない。そこにある「安心感」や「つながり感」こそが、本当の価値なのだと。
それなのに、私のLINE配信はどうだったでしょうか?
「○○大会開催」「新しいルール導入」といった機能的な情報ばかり。お客様が本当に求めている「安心感」や「つながり感」は、全く伝わっていませんでした。
つまり、お客様が求めているのは「情報」ではなく「共感」だったのです。
「このお店は私のことを理解してくれている」
「ここに来ると、いつも温かく迎えてくれる」
「店主の人柄が伝わってきて、信頼できる」
このような感情を抱いてもらえたとき、初めてお客様は「また来たい」と思ってくださるのです。
では、どうすれば文章を通じて、このような感情を生み出すことができるのでしょうか?
その答えが、アン・ハンドリーの「3つの秘訣」にありました。
「また来たい」と思われる文章術の3つの秘訣
25年間、ライターや編集者として活動してきたアン・ハンドリーが導き出した「優れた文章の3つの要素」。これを店舗経営者の私たちの視点で解釈し直すと、驚くほど実践的な「文章術の秘訣」となります。
私はこの3つの秘訣を意識することで、LINE配信の反応率を劇的に改善することができました。そして何より、お客様との関係がこれまで以上に深まったのを実感しています。
秘訣1:お客様の「なぜ?」を先読みする文章術
「優れた文章は、読者の質問を予期している」
これがアン・ハンドリーの第一の原則です。
私が最初にこの言葉を読んだとき、「確かに!」と膝を打ちました。なぜなら、自分のこれまでの配信を振り返ったとき、お客様が抱くであろう疑問に全く答えていなかったからです。
例えば、以前の私はこんな配信をしていました:
「明日は雨の予報ですが、元気に営業しています!」
一見、親しみやすい配信に思えます。でも、これを読んだお客様は、きっとこんな疑問を抱くはずです:
「雨の日って、お客さん少ないのかな?」
「雨の日に行っても、いつものような雰囲気で楽しめる?」
「駐車場は濡れずに入れるのかな?」
でも、私の配信にはこれらの疑問への答えがありませんでした。
この原則を学んでから、私は配信文を書く前に必ず自分に問いかけるようになりました:
「この配信を読んだお客様は、どんな疑問を持つだろう?」
「どんな不安を感じるだろう?」
「どんなことを知りたがるだろう?」
そして、その答えを配信文の中に必ず含めるようにしたのです。
先ほどの「雨の日」の配信を、この原則に従って書き直すとこうなります:
「明日は雨の予報ですね。こんな日は『お店、空いてるかな?』と心配される方もいらっしゃるかもしれません。でも実は、雨の日こそゆったりとした時間が流れて、いつもとはまた違った落ち着いた雰囲気を楽しんでいただけるんです。当店は駅から店内まではほぼ濡れずにお入りいただけますし、雨音を聞きながらの麻雀も、なかなか風情があって素敵ですよ。」
いかがでしょうか?お客様の疑問や不安に先回りして答えることで、配信に「親身さ」と「安心感」が生まれます。
この技術は、どんな配信にも応用できます。
イベント告知なら:「楽しそうだけど、初心者でも参加できるのかな?」という疑問に先回りして答える。
新サービス紹介なら:「興味はあるけど、今までのサービスとどう違うの?」という疑問に答える。
休業告知なら:「急に休みになったけど、何か問題があったのかな?」という不安に答える。
お客様の立場に立って考え、その疑問や不安に寄り添う。これが第一の秘訣です。
秘訣2:信頼を生む「根拠ある」情報の伝え方
「優れた文章は、データに根拠がある」
これが第二の原則です。
最初にこの原則を読んだとき、正直戸惑いました。「データって言われても、麻雀店にそんな大層なデータなんてないよ…」と。
でも、よく考えてみると、私たちの日常の経営には「根拠」となる要素がたくさんあることに気づきました。
以前の私は、こんな感じで「なんとなく」の配信をしていました:
「当店自慢の○○、とっても美味しいのでぜひお試しください!」
これでは、お客様からすると「店主がそう言ってるだけ」という印象しか残りません。
この原則を学んでからは、必ず「なぜそう言えるのか」の根拠を添えるようにしました:
「当店自慢のうな重、焼きと蒸しを幾度となくテストを繰り返し「コレだ!」というレシピで調理しています。先月いらした常連のA様からも『今まで食べたうな重の中で一番美味しかった』とお褒めの言葉をいただきました。じっくり焼き上げる香ばしさを、ぜひ一度ご体験ください。」
「根拠」は何も難しいデータである必要はありません。
- お客様からいただいた実際の声
- 製法についての具体的な情報
- これまでの経験から得た知見
- 他店との具体的な違い
これらすべてが「根拠」になります。
例えば、清潔さをアピールしたいときも:
「いつも清潔にしています」ではなく、 「毎朝8時から、スタッフ全員で30分かけて店内清掃を行っています。特に麻雀牌は、専用の洗浄液で一つ一つ丁寧に拭き取り、お客様に気持ちよくお使いいただけるよう心がけています」
このように具体的な根拠を示すことで、お客様の信頼を得ることができるのです。
安全対策についても:
「コロナ対策をしています」ではなく、 「入店時のアルコール消毒はもちろん、1時間ごとの換気、テーブル間の距離確保(通常より50cm拡大)、使用後の牌とテーブルの除菌など、○項目のチェックリストに基づいて対策を実施しています」
根拠があることで、お客様は安心してご来店いただけるようになります。
私たちは毎日お客様のことを考え、より良いサービスを提供しようと努力しています。その努力の「根拠」を、きちんと言葉にして伝えること。これが信頼関係の基礎となるのです。
秘訣3:複雑なことをシンプルに伝える技術
「良い文章はシンプルであるが、短絡的ではない」
これが第三の原則です。
この原則を理解するのに、私は少し時間がかかりました。「シンプルに書くのと、短絡的に書くのって、どう違うんだろう?」と。
でも実践していく中で、その違いがはっきりと分かるようになりました。
例えば、私の店で行っている「大会形式健康麻雀」について説明するとき、以前はこんな風に書いていました:
「当店では、様々なバリエーションの大会形式健康麻雀を実施しており、ゴールドチップ獲得システムにより半チャン毎にメリハリをつけることで、お客様のモチベーション向上と満足度向上を図っています。」
これは「短絡的」ではありませんが、決して「シンプル」ではありません。お客様からすると「なんだか難しそう…」という印象を与えてしまいます。
この原則を意識して書き直すと:
「『今度の半チャンは頑張るぞ!』そんな気持ちになってもらいたくて、当店では半チャン毎にゴールドチップがもらえる仕組みを作りました。一日中麻雀を楽しんでいただく中で、ちょっとした目標があることで、いつもよりワクワクした気持ちで打っていただけるんです。」
複雑な仕組みの説明を、お客様の感情に焦点を当てて「シンプル」に表現しました。でも決して「短絡的」ではありません。なぜそのシステムを導入したのか、お客様にとってどんなメリットがあるのかを、きちんと伝えています。
新しいサービスを説明するときも同じです:
複雑な説明:「新導入の○○システムにより、従来比30%の効率化を実現し、お客様の利便性向上を図ります。」
シンプルな説明:「お待たせする時間を少しでも短くしたくて、新しいシステムを導入しました。これまでよりスムーズにご案内できるようになりましたので、お気軽にお越しください。」
「シンプル」とは、余計な装飾を削ぎ落として、本当に大切なことだけを伝えることです。そして「短絡的ではない」とは、お客様にとって本当に必要な情報は省略しない、ということです。
技術的な詳細ではなく、お客様の感情や体験に焦点を当てる。 専門用語ではなく、日常会話で使う言葉を選ぶ。 複雑な仕組みも、その背景にある想いから説明する。
これが第三の秘訣、「シンプルに伝える技術」です。
実際に効果が出るLINE配信メッセージの作り方
理論を学んだだけでは、実際の配信は改善されません。大切なのは、これらの秘訣を具体的にどう活用するかです。
私が実際に配信している内容をもとに、「3つの秘訣」をどのように組み合わせているかをお見せしたいと思います。
「3つの秘訣」を使った配信文の具体例
例1:季節の変わり目の配信
【改善前の配信】
「季節の変わり目ですが、体調にお気をつけください。当店は今日も元気に営業中です!」
【改善後の配信(3つの秘訣を適用)】
「最近、朝晩が冷え込むようになりましたね。『ちょっと風邪気味かも』と心配になっている方も多いのではないでしょうか?(秘訣1:疑問の先読み)
実は、この時期にご来店いただく常連の皆様から『ここに来ると、なんだか元気になる』というお声をよくいただきます。(秘訣2:根拠ある情報)
それは、麻雀を通じて頭を使い、仲間と会話することで、自然と心も体も活性化されるからかもしれませんね。温かい店内で、心も温まる時間をお過ごしください。(秘訣3:シンプルに本質を伝える)」
例2:新サービス告知の配信
【改善前の配信】
「新メニュー『特製うな重』開始しました!ぜひご利用ください。」
【改善後の配信(3つの秘訣を適用)】
「『麻雀店でうな重?』と驚かれるかもしれませんね。(秘訣1:疑問の先読み)
実は私、うなぎが大好きで、美味しいうなぎを求めて色々なお店を巡り歩いているんです。そんな中で出会った老舗問屋さんから、特別に分けていただけることになりました。(秘訣2:根拠ある情報)
一日麻雀を楽しんだ後に、『今日はちょっと贅沢しちゃおうかな』という気持ちで味わっていただけたら嬉しいです。(秘訣3:シンプルに想いを伝える)」
例3:混雑状況の案内配信
【改善前の配信】
「本日は満席になる可能性があります。」
【改善後の配信(3つの秘訣を適用)】
「『今日は行けるかな?』とお電話をいただくことが増えています。ありがたいことに、最近お客様が増えており、特に午後は混雑することが多くなりました。(秘訣1:疑問の先読み)
昨日も、いつもの○○さんグループと、新しくいらした△△さんで、ほぼ満席状態でした。(秘訣2:具体的な状況)
せっかくお越しいただくのに、お待たせするのは申し訳ないので、お電話一本いただけると、お席の状況をお伝えできます。皆様にゆっくりお楽しみいただきたいので、ご協力お願いします。(秘訣3:シンプルに本質を伝える)」
配信前に必ずチェックすべき4つのポイント
これらの具体例を参考に、私が配信前に必ずチェックしている4つのポイントをお伝えします。
ポイント1:読み手の疑問を想像できているか?
配信文を書いた後、必ず「これを読んだお客様は、どんなことを疑問に思うだろう?」と自分に問いかけます。そして、その疑問への答えが配信文に含まれているかをチェックします。
ポイント2:「なぜそう言えるのか」の根拠があるか?
「美味しい」「安心」「楽しい」などの形容詞を使ったら、必ずその理由や根拠を添えているかを確認します。お客様の声、具体的な取り組み、実際の体験談など、何らかの「証拠」があることが大切です。
ポイント3:専門用語や難しい表現はないか?
業界用語や専門的な表現を使っていないか、小学生でも理解できる言葉で書けているかをチェックします。でも、内容は薄くしません。本質的な価値をシンプルに表現できているかを確認します。
ポイント4:自分の想いが伝わっているか?
最も大切なポイントです。事務的な情報伝達になっていないか、お客様への想いや感謝の気持ちが込められているかを確認します。
私はこの4つのポイントを「配信前チェックシート」として手元に置き、毎回必ず確認してから送信しています。
最初は時間がかかりましたが、慣れてくると5分程度でチェックできるようになりました。そして、この習慣が私の配信を劇的に改善してくれました。
文章術を身につけた店舗経営者の未来
「3つの秘訣」を実践し始めてから、私の店舗経営は大きく変わりました。
数字的な変化も確かにありました。LINE配信の開封率が約2倍になり、返信をいただく機会も3倍以上に増えました。そして何より、お客様の来店頻度が高まり、新規のお客様をご紹介いただくケースも増えました。
でも、数字以上に価値を感じているのは、お客様との関係性の変化です。
「河原さんのLINE、いつも楽しみにしています」
「お店の様子がよく分かって、安心して来られます」
「こんなに想いを込めて営業されているとは知りませんでした」
このような言葉をいただくようになり、単なる「サービス提供者とお客様」の関係から、「信頼し合える仲間」のような関係に変わってきたのを実感しています。
文章術を身につけることで得られるのは、単なる集客効果だけではありません。
お客様との信頼関係が深まります。 あなたの想いや価値観が伝わることで、お客様は「この店主の人柄が好き」「この店を応援したい」と感じてくださるようになります。
他店との差別化が自然に生まれます。 同じサービスでも、あなたならではの想いや背景が伝わることで、唯一無二の価値を感じてもらえるようになります。
お客様が積極的に応援してくださるようになります。 信頼関係が生まれると、お客様は新しいお客様をご紹介してくださったり、SNSで良い口コミを書いてくださったりと、自然と店舗の応援団になってくださいます。
経営が安定します。 一時的な施策に頼らず、お客様との継続的な関係性を基盤とした経営ができるようになります。
そして何より、経営することの喜びが深まります。
お客様からの温かい反応をいただくたびに、「この仕事をしていて本当に良かった」と心から思えるようになるのです。
あなたの努力と向上心に最大限の敬意を込めて
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
7000文字を超える長い記事を最後まで読み進めてくださったあなたの姿勢に、私は心から敬意を表したいと思います。
日々の経営で忙しい中、「少しでも店舗を良くしたい」「お客様に喜んでもらいたい」という想いで情報を求める。その向上心こそが、あなたの店舗を成長させる最大の原動力だと確信しています。
文章が苦手だと感じることは、決して恥ずかしいことではありません。私もそうでしたし、多くの経営者が同じ想いを抱えています。大切なのは、お客様を想う気持ちです。その気持ちがあれば、文章は必ず上達します。
今日お伝えした「3つの秘訣」は、決して難しいものではありません。
お客様の疑問に先回りして答える。 根拠を持って情報を伝える。 複雑なことをシンプルに表現する。
この3つを意識するだけで、あなたの配信は必ず変わります。そして、お客様との関係も必ず深まります。
最初は完璧を目指さず、一つずつ実践してみてください。お客様はあなたの努力を必ず感じ取ってくださいます。そして、その小さな変化の積み重ねが、やがて大きな成果となって返ってきます。
あなたの店舗が、お客様にとってかけがえのない場所になりますように。そして、あなた自身が経営の喜びを深く感じられますように。
心から応援しています。
今すぐ実践してみましょう
この記事を読んだ今が、行動を起こす最高のタイミングです。
- 次回のLINE配信で「3つの秘訣」のうち1つを意識して書いてみる
- 過去の配信文を見直し、お客様の疑問に答えられていたかをチェックしてみる
- お客様からいただいた声を集め、次回の配信の「根拠」として活用してみる
小さな一歩から始めて、あなたならではの文章術を身につけていきましょう。